結論を言うと、三角縁神獣鏡は中国では未だ一枚も確認されておりません。原田大六著「卑弥呼の鏡」（昭和五十四年発行）では確かに岡崎敬著「洛陽考古見聞記」からの引用で、中国から三角縁神獣鏡が出土しているらしい、と記しています。

しかし、これは一種の伝聞で、原田大六自身も現物を確認していません。三角縁神獣鏡が本当に中国本土から出土すれば、大ニュースです。原田氏は現物も確認せずに伝聞（うわさ）に飛びついたのです。
「卑弥呼の鏡」でも「 ･ ･ ･ 文様までも似ているものだという」「 ･ ・ ・ とあったものらしい」「 ・ ･ ・ 一部読みづらい所もあるという」、と歯切れ悪い表現となっています。
この件について、中国側はその事実を全く認めていません。

その後、昭和五十六年に中国社会学院考古学研究所の王仲殊副所長（当時）が「日本の三角縁神獣鏡について」という論文を発表し、「三角縁神獣鏡は、日本に渡った中国の、それも呉の鏡職人が日本で作ったもの」、と結論づけています。そして、その大きな理由の一つとして、「まずもって、この三角縁神獣鏡という形式の鏡が、中国では一枚も出土していないこと」、を指摘しています。

その後、今日まで約二十年間、日本および中国考古学会は中国本土での三角縁神獣鏡の出土を全く認めておりません。
またご承知のように、今回の黒塚古墳での三角縁神獣鏡出土に関する各種報道も、「三角縁神獣鏡は中国で一枚も出土していない」、としています。